アーサーの贈り物
大塚俊哉 心臓血管外科医
娘にせがまれて、ヒット映画「アーサーのクリスマス大冒険」を見に行った。子供向けのアニメと侮るなかれ、大人も考えさせられる映画だった。
サンタクロース一家は北極の要塞のようなところに住んでいる。一家には毎年クリスマスイブに秘密の使命−夜明けまでに20億人の子供たちにプレゼントを配る−がある。サンタは高速の巨大な透明宇宙船に乗って世界を飛び回り、同乗するすばしっこい小さな妖精たちが降下して子供たちの家に忍び込み贈り物を置いてくる。サンタの長男のスティーブは野心家のエリートで、ハイテク技術を備えた作戦司令室で指揮を取り、自分の仕事を完遂することに自己満足を覚えるタイプだ。一方、次男のアーサーは純真で不器用で、プレゼント作戦には入れてもらえず子供たちからのカードに返事を書く係に甘んじている。ある年のクリスマスイブに技術的な問題が発生−贈り物がひとつ配達されないことになる。スティーブは20億分の1のエラーなんてどうでもよいというが、アーサーは、「どうでもいい子供なんて地球上にいないんだ。」と主張する。アーサーは決意して、空飛ぶトナカイ橇に乗り込み、イギリスにいるひとりの子供に、約束した自転車を届けるため、危機また危機の冒険に旅立つ。
3Dメガネで映像をみながら、十分に楽しめるストーリーになっている。ハイテクを駆使した愉快で信じられないような秘密作戦やら、空飛ぶトナカイ橇が道に迷ってアフリカでライオンに取り囲まれたり、間違えてメキシコに行ってしまったりなどなど。面白おかしい部分はさておき、簡潔なセリフ、「どうでもよい子供などいない。」は私の琴線に触れるものがあった。
まさしく、子供たちは生まれつき分け隔てなく大人たちに守られる権利を持っている。それならば、われわれが、3月11日以降福島の子供たちに送った最悪の贈り物のことを考えてみるべきではないか? 子供たちの感受性の高いDNAに悪影響を与えるセシウムの内部被爆、学校や幼稚園にいやおうなく降り注ぐ放射線のシャワーなどなどきりがない。心が痛む。にもかかわらず、上から目線でこう言う経済学者がいる―「原子力にノーという輩は絶望的に世間知らずの理想主義者だ。彼らは経済の何たるかをぜんぜんわかっていない。」結局すべては金ということ。それならば、教えてほしい。ひとりの子供の命の値段は?大切な場所を奪われた子供たちの悲しそうな顔にいくらぐらいの値札を貼るのか? 政府のやる気のなさ、無力、無責任については言いたくもない。政府が子供達やわれわれの子孫に何をしてあげたいのか見えてくるだろうか?
3月11日の地震は確かに1000年に一度の災害だ。しかしながら、私はスティーブのように「20億分の1の確率に過ぎない。」とは言いたくない。アーサーのように、たとえたった一人の子供も無視しない人間でありたい。アーサーの決意、勇気そして不屈の精神を見習えば、われわれが未来世代に何をしてあげるべきか明確になると思う。アーサーがそうしたように、われわれも困難であるが未来を見据えた決断を今こそ子供たちのためにするべきではないか。われわれの英知と残された最後のお金を、無駄で自己破壊的なマネーゲームなどではなく、真に安全でクリーンで信頼できるエネルギーを探ることに使ったっていいではないか。
映画の結末はいかに?もちろんアーサーはやってのけたし、彼の父を継いで子供たちの願いを決して裏切らないサンタになったのだ。
2011年12月21日掲載
<英語版はこちら>
|